第一章 始まりは終わりの地で

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「ご、ごめん。ほら、彩弓も」 「えっと、うー、ごめんなさい」  彩弓は若干反抗的な視線を舞香によこしつつも、碧に謝った。この場で一体誰が力を持っているのか……それを第三者であるはぐれ陰陽師のヨウは悟った。 「姉は強し」  何言ってんだこいつというように、その背後で式神の霊気が揺らいだ。 「ところで、大峯山に行った陰陽師組はいつ戻ってくるんだい?」 「……あと、もう少し」  告げたのは、彩弓だった。その瞳は暁に染まる虚空を見つめている。  ほう、とヨウがその様子を横目で感心したように注意深く観察している。 「“天眼通(てんがんつう)”の力か? 随分と精度が高い」 「元々、彩弓は霊視の能力が高かったから。今は力の制御を学んでいるところよ」 「へへっ、すごいでしょー」  誇らしげに説明する碧と自分のことのように自慢する舞香の間で末娘の彩弓は恥ずかしげに体を縮めた。 “天眼通(てんがんつう)”、それは霊視能力(見鬼とも呼ばれる)の中でもかなり高度な霊術の一つである。陰陽師にとって霊気を感じ取る力は必須とも言えるが、その感じ方は陰陽師によって様々であり、漠然としか感じ取る事が出来ない者もいれば霊気の陰陽の調和、均衡が取れているかどうかまで詳細に分かる者までいる。  その陰陽師の中でも特に霊視能力が長けた者は、遠くで起きている霊的な出来事の全てを見通すことも可能だった。その力が“天眼通”だ。そして、これを更に極めると未来の出来事、過去の出来事まで見通せる“神眼”となるという。現陰陽寮では、藤原霧乃の妹である藤原千星空等がこれにあたる。卜部や占事の力もまた、基礎はこの「視る」力から始まる。 「ま、まだ、そのぼんやりとしかわからないんですけどね」 「謙遜する必要はないさ。その年で、そこまで分かれば大したものさ」  褒めつつ、ヨウは空を見上げた。一般人に見つからない程度に隠形が掛けられていた巨大な舟の影が、栃煌神社に薄らと御簾のようにかかる。  全長は二百メートル。見た目は遣唐使船のような底が平らな古風な舟であるが、両舷には戦艦の主砲のようなものが前方に向けて突き出ている。
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