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「二人とも、外を見て」
蒼が指さしたその先。
窓の向こう。
海の楽園は、物の怪の宴会場と化していた。
頭は猿,体は狸,尾は蛇,脚は虎に似た物の怪――鵺が地上を闊歩し、空を怪鳥が飛び交う。
そして、つい数分前まで穏やかだった海は大波に荒れていた。その波が巨人を象る。海の怪異――海坊主。
「馬鹿な。陰の界と陽の界の狭間が機能していないのか……?」
真二が愕然と呟く。蒼もまた、目の前の光景をすぐには信じられずにいた。物の怪の住処は、形無きモノの世界――陰の界。それが世界の線引きである。霊気が乱れ、負の気が高まった時に物の怪は現世――、陽の界へと形あるものとして具現化する。
それを察知出来なかった。竜宮へと潜入した陰陽師の誰一人として。
「違う……。線引きは、狭間が機能していないんじゃない」
蒼はある可能性に思い至って、身を震わせた。
「狭間の掟、そのものが変わってしまったのよ」
ここ数日、立て続けに起きた怪異。そのいずれもが陰陽師によって阻止された。しかし、である。陰陽師の誰もが事前に怪異を察知できなかった。一件目は止むを得なかった。
だが、二件目、三件目となると、流石の現陰陽寮も認めざるを得なかった。
怪異を事前に察知することが出来ないということに。
現陰陽寮には、卜部、霊視に精通した陰陽師から成る隊を編成している。霊的な意味での索敵部隊であるのだが、彼らが前兆を察知することさえ出来なかったのである。
「おいおい、何を言っているんだ」
真二は混乱したが、銀勇は眉も動かさず、蒼の言葉に耳を傾けている。
「初めから気が付けば良かった。鬼哭啾啾(きこくしゅうしゅう)は言ってたじゃない。これはワタツミ神様が起こした災いなんだって」
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