第三章 鬼哭啾啾の亡霊

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 御意と答えた式神は、片手を迫りくる鵺の群れへと翳した。 「のうまく さんまんだ ばさらだん かん」  不動明王の真言の一つである一字咒(いちじしゅ)  霊力が火の波となって、鵺へと襲い掛かり呑みこんだ。  それに追い打ちを掛けるようにして、日向は手刀を打ち下ろした。霊力が刃となって、鵺を一刀両断、そのまま壁を貫いた。 「主殿、こちらです」  式神の呼びかけに、蒼そして真二と銀勇は駆け出す。が、ふと一瞬足を止めそうになる。真二と銀勇が追い抜いていくが、それでも蒼は視線を逸らすことが出来なかった。  視界の隅に映るのは、先ほどすれ違った子ども達だ。少年と少女。少女の方は倒れ、少年は傍で泣き叫んでいる。その少年も負の霊気の影響を受けて意識がいつ切れてもおかしくはなかった。 ――一人一人を介抱していたらキリがない。  そうさっき言われた。目についた者だけを助けるのは自己満足であり、無責任であるかもしれない。ここで一度助けたところで、あの少年と少女が救われる保証はどこにもない。 ――それでも……。  蒼は護符を投擲した。それがどんな結果を呼ぶか、確認することもなく彼女はその場を後にした。
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