第三章 鬼哭啾啾の亡霊

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「嬢ちゃんは、このにーちゃんが心配で、この世に残ったんだろ?」  その場を助けたのは、慧玄だった。この中での一番の年長者たる彼は、口調こそ砕けているが、重みがあった。淀みなく発せられる言葉には彼自身の覚悟がある。 「う、うん。確かにキー君がどーなったのかは気になってた……かな?」  不思議と声の力みが取れたところで、ようやく場の空気も和んだ。それから、笹井が蒼に続きを促した。 「それで、怪異があの後どうなったかもご説明願いますか?」 「怪異の原因は、術者達がワタツミ神を目覚めさせ負の祈願を捧げたからだった。私達陰陽師は、怪異の大本であるワタツミ神に鎮まってもらおうと交渉したけど――失敗し、激しい戦いになった」  百?閧ヘ一見にしかず。どれだけ言葉を尽くしても、その光景を伝えきれないだろう。 「私はあの戦いで式神を失った」  ただ、その一言が戦いの激しさを物語っていた。  日向(ひゅうが)が、今の月の相棒である日向(ひなた)と同格の式神であることは間違いない。  陰陽少女――成人した後は、陰陽之巫女と言うらしい――の式神は日の神の加護を受けるという。一真自身、その力を幾度となく目にし、命を救われた。  式神とて無敵ではないことは分かるが、それでもやはり信じがたい。 「ひとつ、誤解を招かないように言っておくと、日向は決して敗れたわけではないわ」 「それじゃあ、一体――」 「怪異の原因は、ワタツミ神の暴走。誰かがワタツミ神を鎮める役割を果たす必要があったの。犯行グループの術者の何人かは捕らえることができたんだけど、彼らでは神様を昂らせることはできても鎮めることは出来なかった。荒ぶるワタツミ神は、そのままにしておけば数十年に渡って付近の海に災厄を振りまくところだった。それを鎮めるには、一睡も休むことなく祝詞を唱え続け、封印の術を延々と掛け続けなければならない。過去にその役割を担った宮司や巫女はいたらしいのだけど、現代においてそんな役割を担える人々はいない」 「でも、式神なら――」  そう呟いたのは日向(ひなた)だった。
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