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ふと、その表情を見て一真は哀しくなった。以前だったら、背筋が凍ったかもしれない。
――私は人間じゃないから。
まだ会って間もない頃、彼女がそんなことを言ったのを覚えている。
「式神なら、飲食も睡眠もいらない。誰かと交代交代で祝詞を唱え続ける必要もないってわけだね」
「そう、その通りよ。うってつけだと思った。だから彼に、後の事を任せたの」
蒼は弁明するでもなく、肯定した。
日向の視線と蒼の視線が交差し、一触即発とも取れるような空気が流れる。それを断ち切ったのは舞香だった。
「て、あれ? でも、それじゃあ今回、怪異が再発したってことは」
「……封印になんらかの問題が起きたか、或いは」と月が呟き、それを刀真が引き継ぐ。
「第三者が妨害に入ったか……だな」
第三者――二十年前の怪異テロ首謀者の残党とかだろうかと、一真は想像を巡らせてみるが、断定はできない。
「事情はどうあれ、私から話せる事は以上よ。一真君に、晃君も、無理はしないでね。あくまでもどんな様子か偵察するだけで、深入りはしないこと」
蒼の言葉に、晃はそりゃ無理だろという顔で返す。
「そうは言っても、どうも偵察だけで済みそうにない気がするんですけどねぇ」
「お前は余計な事を言うんじゃない……」
「なんだよ、一真。二十年も封じてたモンが出てきたんだ。ちょっと見に行くだけでも命懸けとか思わないか?」
言われてみればどこまでも正論ではあるのだが、少しは遠慮というものを考えて欲しい。
「あ、でも……、もしも日向(ひゅうが)に何かがあったんのならば、蒼さんが行くべきじゃないんですか?」
「確かにね。でも、私が直接行ったら、日向との間にトラブルが起きるかもしれない」
『任せた』と蒼は言った。だが、その言葉にはどこか自信が無いようにもみえる。
「それに、私はまだやらないといけない事があるの。大峯山にまた戻らないといけないの」
「“虚無の徒”とか名乗っていた連中の足取りを追わんといけないからなぁ。それと、沙夜も野放しには出来ん」
真二の言葉に、一真も月も晃も、そして他の全員も、それぞれの思いが表情として滲み出ていた。
ここにいるほぼ全員が、彼らとの因縁があった。
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