第三章 鬼哭啾啾の亡霊

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††† ――そうして、現在に至る。 『私の式神をどうか頼みます』  出発する一同に向かって、蒼はそう言って託した。 『頼む』とは、一体どうしろと言うことなのか。それは明確には言わなかった。  式神がどんな状況になっているのかわからないのだから、当然といえば当然なのだろうが……。 ――やっぱり、蒼さんが行くべきなんじゃ。  つい、そう思ってしまう。 「やることはさして単純だ」  刀真はそう告げ、腰元の霊刀――雷命(ミカヅチ)に手を掛けた。 「怪異の大元を調査し、これを絶つ」 「シンプルで結構だけどよ」と晃が口を尖らせた。 「そいつは海神(ワタツミ)が引き起こした怪異、いわば崇りみたいなもんだろ。どうやって倒すんだ」 「倒すとはまた、大きく出たものね」  艶っぽい声が空から降ってくる。帆の上に腰かけた義賢の言葉だ。彼女は、興味があるからという完全に物見遊山の感覚で参加している。こちらとしては、少しでも戦力になるならという理由で連れてきているのだが、肝心な時以外は役に立ちそうにないような予感がしてならない。 「神を殺す――そんなことは出来ないとまでは言いきれないけど、殺してしまったら、ここの海は二度と鎮まることはなくなるでしょうね」  海神はいわば、大自然――海を具現化した神だ。  そして神には、温和な一面の和魂と荒々しい一面の荒魂の二つの側面を持つという。  海がもたらす恵みも、海がもたらす災いも、ひとつの海がもたらすものである。  陽の界と陰の界も同じだ。目に見える世界と目には見えない世界。そのどちらもがあるからこそこの世界は存在できる。 ――てことを師匠(せんせい)に教わったが、なんとなくでしか分からないな。  霊術に触れてから日がまだ浅いせいだろうか。なんとなく、それが必要なことなんだろうなという程度にしか理解できていない気がした。  ちなみに今回は、一真の師匠(せんせい)こと鬼一眼徹は来ていない。元々彼は現陰陽寮とは一歩引いた付き合いをしていたのだが、今回もまた、現陰陽寮の任務そのものには参加してこなかった。  来ていないと言えば、とある理由から晃の式神である葛葉丸を置いてきている。そのとある理由と言うのは、一真のことだ。 ――今頃、合宿先で楽しくやってんのかな……。
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