第三章 鬼哭啾啾の亡霊

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 そう、今頃は一真に化けて、未来達と合宿に行っている筈なのである。元々葛葉丸は、個人的に一真に対して興味を持っていたらしい。大峯山の一件で、晃が一真に呼び出した時よりも前から、二人を会わせてやろうと画策もしており、結果として合宿先が大峯山になってしまったのである。彼は一真本人に化けられて妙に楽しそうだった。  大峯山は先日に戦いが起きたばかりだが、戦いの舞台は主に陰の界であるため、陽の界にはさしたる被害も出ていないらしい。が、万が一も考えた上での処置である。葛葉丸ならば、部活メンバーに正体を知られることなく、護衛も出来る。 『ま、僕のせいでもありますからね』とか本人は言っていた。  ただ、一真にとってそんなことよりも、何より怖いのが。 ――未来……、怒ってたなぁ……。  今回の任務は、未来が付いてこれるようなものではない。ついていきたいと言う彼女に対して満場一致でそう突っぱね返されたのである。  その代わりと言うのもひどすぎる話だが、一真に化けた葛葉丸が変に思われないようにサポートするよう頼まれている。本人は最後まで怒っていて、本物の一真には口も利かなかった。なんとか頼み込んだのは、意外にも月だった。  どう頼んだのかは聞いてないし、怖くて聞けないが。 ――妙に結託しているようなところあったな……。  それからというもの、月は妙にさっぱりとした調子で、一真とも自然に話している――そう思うと、やっぱり怖い。 「倒すんじゃなくて、鎮める。そのために私がいる」  月がそう言った。凛とした表情は誰の目にも頼もしく見えた。 「ね、一真」 「お、おぅ!」  突然振られて、一真は気合を入れたつもりで答える。周りには震えているようにしか聞こえなかったが。 「前回の怪異の時もそうだった。海神の力を出来る限りそぎ落としつつ、蒼が鎮める。そして、日向が封じ込める」  先代の式神の名に、日向の表情が翳った。そんな日向を思ってか、月は両手を握りしめて力強く宣言する。
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