第一章 始まりは終わりの地で

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 アンバランスさながら、全体的に細長い印象を与える形状のせいか、一種の機械美を感じさせる。 現陰陽寮が誇る天舟――天を進む舟。天城――壱の側面がスライドしていく。地面に降りてきたのは横幅の広い梯子(はしご)だった。何十人という陰陽師がそれを下って来るのを見て、碧と舞香、彩弓は驚きで目を丸くした。  露骨に苦々しい笑みを浮かべたのは、ヨウだった。彼は栃煌神社にはよくふらふらと現れるものの、現陰陽寮とは一定の距離を置いていたのだ。すっと立ち上がるとそのまま黙ってとんずらしようとするのだが。 「なんでぃ、まるで戦時中だな。こんな狭いところに負傷者を下ろす気かよ」  長い石段をえっちらおっちらと昇ってきた白衣のおっさんがそんなことをぼやいた。 「トンベのおっさん!」ヨウが声を上げると、トンベと呼ばれたおっさんは、広いでこに皺を寄せた。 「ちっ、お前かよ、ヨウ。またえらくタイミング悪くこんなところに顔を出しやがったもんだ」  二人のやり取りに、舞香は目を丸くして訊ねた。 「二人は知り合いなの?」 「ただの腐れ縁さ」と、トンベの方が首を振って答えた。ちなみにトンベは本名ではない。蛇信仰の中にでてくる憑神であり、その姿は一尺ほどの首玉のついた小蛇で、恨みのある相手を襲い、祟るという。が、本人は名前の意味を聞かれると「フランス語で傾くって意味さ」等と答えたりするのだが。 「あんたがここにいるってことは、あれに乗ってるのは負傷者か?」 「それと、俺の力が至らなかったばかりに負う必要のなかった傷のついちまった姉妹が乗ってる。負傷者だけなら、サボタージュしてたところだがな。今回ばかりは俺にも責任があるんでな」  ぶっきら棒な口調に含まれる苦々しい想いが、戦いの悲惨さの一端を物語っていた。  碧と舞香は互いに顔を見合わせ、彩弓はそんな二人の顔に自分はどうすればいいのかと戸惑いを見せる。 「さて、これは忙しくなりそうね」 「あ、えっと彩弓はどうすれば?」  碧の顔を見ながら訊ねる彩弓に、舞香が答えた。 「鈴彦姫も出して、彩弓。式神総動員で、怪我した人達の手当をするよ」
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