第三章 鬼哭啾啾の亡霊

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「状況報告」  南雲は、遅れたことに何か文句を言う事もなく、きびきびとした態度で訊ねた。 『問題発生よ』 「早速か」と晃が毒づいた。 「援護が必要か?」 『援護……というよりも、調査が必要ね。りゅうぐう近海を航行中の船舶がりゅうぐうに向けて進路を取り始めてるわ。大型客船が一隻に、クルーザーが二隻程。そちらに近いのは、客船の方よ』 「ならば、客船には刀真達を乗り込ませよう」  南雲の判断は即決だった。 「いいんですか? 船がなんでりゅうぐう向かってるかは分からないですけど、怪異の大元はりゅうぐうにあるんでしょ?」と、晃は首を傾げ微小を漏らした。 「船の中の人間が無事かどうかを調べんとな。可能ならば機関を停止させる。人命を助けるというのは勿論のこと、今はりゅうぐうでこれ以上の騒ぎが起こってもらっては困る」    “りゅうぐう”の崩壊。それが先日からマスメディアで取り沙汰されている。  7月6日の午後6時、長らく放置されていたりゅうぐうの建物が突如として崩壊を始めた。“りゅうぐう”中心部である“りゅうの塔”が崩れたのを皮切りに、衝撃波が広がるかのように周囲の建造物が崩れていったのだ。  ただ、それだけの事が起きたにも関わらず、報道のカメラどころか、調査員が派遣されることさえ許されないという異様な判断を政府が下しているのである。  当然ながら、憶測から眉唾物の噂も含めて、色々と騒がれている。 ――これって、やっぱり政府側の陰陽師がいるってことなんだろうか。  渡辺銀勇のような陰陽師が勢力となって、止めているのかもしれない。もしそうなら、現陰陽寮にとってはありがたい事なのではないかとも思うのだが、なぜか現陰陽寮はその事をあまりありがたがってないようである。 ――派閥争いみたいなもんなのかな、と一真はあまり深くは考えないでいる。
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