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空は快晴、夏の風が波を撫でる。
天には孤高の太陽、大海原を一隻のボートが疾走していた。
海鳥の声が静かに響き、波の音に溶けこんでゆく。至って穏やかな空気が逆に不穏さを際立たせる。
航海中止を宣言された海を横切る感覚は、最初の内はスリルがあったし、爽快でもあったのだが、次第にその気分も納まってきた。
今は、船が一隻も通らないこの海に無意識のうちに身構えている。
ここは陽の界であるにも関わらず、陰の界に似ている。
「式神が戻るわ」
氷雨の言葉に、舞香と碧、それに笹井と瑠璃が空を見上げた。
蒼の海と空、その世界の境界線を鴎(かもめ)の形をした折り紙が飛んでくる。氷雨の物だ。三方向から、四羽ずつ、合計一二羽の式神は、一羽も欠けることなく、氷雨の手の中へと飛び込んでくる。
「外から見た感じ、何か問題があるようには見えなかったけど……甲板に人が一人もいなかったのは引っ掛かるわね」
式神が“見た”光景は、ボートに設置された六壬式盤へと映し出されていた。氷雨の言う通り、舞香の目から見ても、問題があるようには見えなかったが、人気の無さが気になったというよりも、背筋を怖気が襲った。
「やはり、直接調べない限りは、分かりそうもない、ですか」
そう言ったのは、笹井だ。このボートは彼が運転しているのだ。
「そういうことみたいだよ。そこまで安全運転でお願いするよー」
舞香の言葉に、なぜか瑠璃が胸を張った。
「任せてよ。なんたってきー君の操縦だからね」
瑠璃が自慢するまでもなく、舞香は既に感心していた。
「うん、すごいね。けど、笹井さん、ボートの操縦なんてどこで……ていうか、ボート所持してるなんて意外とお金持ち?」
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