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「ねぇ、その陰の界なんだけど……いつも気になってたことがあるんだけど」と質問を挟んだのは、碧でも舞香でもなく、瑠璃だった。童女の顔には、深刻な表情が浮かんでいた。その表情が押し隠すのは未発達な怒りだった。誰かに怒りをぶつけるだけの勇気がなくて、静かに押し隠しているそんな感じがした。
「物の怪の住む世界なんでしょ? 全部やっつけてしまうわけにはいかないの?」
それは、碧と舞香が幼い頃――式神と霊玉の飾りを受け取って、戦いの基本を教わった時に、二人が親にぶつけた質問と全く同じだった。
「陰の界は確かに、物の怪が住むことを許された世界。だけどね、瑠璃。私達が退治出来るのは、怪異を起こす物の怪、陰の界と陽の界のバランスを破って侵入してくる物の怪だけなんだよ」
そう、舞香は説明したが、瑠璃は納得しなかった。
「どーして?」
「陰の界も陽の界も、二つがあってこそ世界は存在できる。世界のバランスは保たれるの」
「……よくわかんない」
舞香の説明に、瑠璃は困惑した。舞香も初めて説明されたときは頭を悩ませたものだった。
「どんなものにも、二つの面、えー……、わかりやすく言うと、いい面と悪い面があるの。天気に例えたら、穏やかな晴天と荒々しい嵐。今みたいに晴れの日もあれば、嵐の日だってあるでしょ?」
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