第三章 鬼哭啾啾の亡霊

27/83
前へ
/183ページ
次へ
「確かに、物の怪を全部やっつけてしまうことはできないわ。でも、怪異を起こす物の怪をやっつけることはできる……二十年前はそれに失敗したけどね」  その失敗を氷雨は決して仕方ないこととは言わない。自身の傷として背負っている。 ――私もこんな風になれるのかな。    自然と息を吐き出すように、力強い言葉を放つ母の姿に、自分の姿がいかに小さいかが分かる。 「だけど、あなたは生きている。式神っていう形だけどね。それは仕方ないことでもなんでもない。蒼が繋いでくれた命なの。だから、大事にして」 「……うん」  瑠璃は再び頷いた。    舞香は碧と顔を見合わせると安堵の笑みを交し合った。舞香は自分が姉と比べてずっと子どもっぽいことを気にしていた。けれども、母を前にしてみるとそれも団栗の背比べにしか見えないのがおかしかった。 「見えてきましたよ」  そうこうしているうちに、目的のクルーザーが見えてきた。それは式神を通して見た時と変わらず、なんら異常があるようには見えなかった。  氷雨の腕に黒と白の稲妻が走り、碧の体の周りに五龍が顕現する。  舞香も式神、竜姫を呼び出した。自身は霊刀である小太刀を抜き、巫女装束に具足を組み合わせた自身の防護霊具――普段は折り紙となっている――を一瞬で着付ける。 「さぁ、そろそろ乗り込むわよ」
/183ページ

最初のコメントを投稿しよう!

35人が本棚に入れています
本棚に追加