第三章 鬼哭啾啾の亡霊

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†††  笹井城阪の操縦(無免許)により、吉備の巫女達を乗せたボートはクルーザーへと横付けされた。  正確にどのくらいのスピードが出ているのかは碧には分からないが、クルーザーは大体、人が歩く程度の速さで前進していた。  静かなエンジン音、穏やかな風に揺れる旗。  何かが起きそうな静寂なら今まで何度か経験してきているが、この船はそれらとは違い、何も起きそうにない……気がした。  ただ、その一方で冷静に考えて、何も起きていない筈がないではないかと自分を叱咤する。 「それで、作戦だけど……一気に飛び込んじゃう?」  母の提案に、碧は一瞬思考が停止した。舞香も同様だが、こちらはその停止した思考のまま、飛びついた。 「あ、じゃあそれでい、んぎゃあ!!」 「いいわけないでしょ!! そんなの作戦でもなんでもないじゃない!!」 提案に飛びつこうとしたので鉄拳制裁を加えておいた。 「な、なんで、私殴られてるの……」 「この船に異常があるのかどうかを確認するのが先でしょ?」  頭を押さえる舞香と、気楽な母に嘆息を漏らす碧。吉備家では、父が考えなしで、母はいい加減で、妹はお気楽な所があり、なぜか長女である碧がまとめ役になることが多い。高校生になってからは特にそうだ。 ――一体、私は誰に似たのかなぁ、おばあちゃんに似たのかなぁ……。  ただ、その真面目過ぎる性格が仇となることも多々ある。それは、自分でも一度痛い目を見たので、分かっているつもりだ。  氷雨は少し表情を固めた。 「いや、私は三割くらい本気で言っていたのよ?」 「後の七割は……?」  冗談とか言ったら鉄拳制裁。 「カカオ」
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