第三章 鬼哭啾啾の亡霊

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 やっぱり鉄拳制裁するべきか。ゴキゴキガリガリと女子の拳とは思えない音が鳴り響き、氷雨をビビらせた。というか、カカオってなんだ。 「待ちなさい、我が娘よ」 「言い残したいことがあるなら……いや、いいや。馬鹿々々しいから。なんですか?」 「異様な行動を取っている船舶は他にもあるのよ。ここからそう遠くない距離でね。十中八九怪異の影響を受けていると思うの。だから、もう調査とか生ぬるいこと言っていないで、いきなり突入して中にいるであろう物の怪だのなんだのを叩きのめした方がいいんじゃないかと」 「それは一理あると思いますが」と運転中の笹井が口を挟んだ。 「差し出がましいようですが、危険な所、得体の知れない現象。そういったものにわざわざ近づきたがる物好きはどこにでもいるものですよ。特に、今回の怪異の発生源は、かつての怪事件の舞台、“りゅうぐう”ですからね。政府が厳戒態勢を敷いてるにも関わらず、見に行きたがるような狂人はいるでしょう」  “りゅうぐう”の怪異。表向きには“集団催眠”に掛かった島民によるパニックが引き起こした事件ということになっている。が、その原因はおろか、経緯すらもが曖昧である点が多く、科学的根拠や歴史的に類似する事件からの推測から根拠のない陰謀論に、挙句には宗教的な予言の話まで(この中である意味近いのが、宗教的な話だというのがなんとも皮肉だが)飛び交ったのはある意味では当然のことだろう。
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