第一章 始まりは終わりの地で

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†††  慌ただしく運ばれていく負傷者の傷は様々だった。手足に治癒の霊符を包帯のように巻いているものがほとんどだ。どの傷も決して浅くはない。中には瘴気で体を毒されて肌が黒ずんでいる者もいれば、体のどこかが欠損しているものもいる。  そうした怪我の度合いとは別に、悲惨な戦いの全てを簡潔にまとまたかのような姉妹が舟の片隅にいた。  一条家の巫女の三姉妹だ。一人は一条(いちじょう)橘花(きっか)、姉妹の長女だ。傷の度合いだけで言えば三人の中で一番浅い。だからといって軽傷というわけではない。それに彼女は周りから刺さる敵意に限りなく近い視線の全てを受け止めなければならない。  次女は霞(かすみ)。肌は人形のように白い。切れ長の瞳といい、尖った顎といい、美人と言っていい容姿だが、今は左目が抉られ、その痛々しい傷を包帯で覆い隠しているが、血は完全には止まっておらず、じわりと包帯を赤く滲ませていた。  そして、三女は八鹿(ようか)。ある意味でこの戦いの転機を作った――作らされた少女だ。上の二人の姉妹は彼女を外からの視線から護るように、囲っていた。  見た目には、彼女はどこも悪くないように見える。が、その顔色は死人のように真っ白で、苦しげな表情と時折漏れる声が唯一の生者の証だった。 「八鹿……ほら、栃煌神社についたよ」  霞が普段は冷酷にさえみえる美貌を不安で歪ませながら語りかけた。 「トンベもいるわ。助かるわよ」と、橘花が長女としての落ち着きを持った声で、その実今にも泣き出しそうな心情で末の妹の頬を優しく撫でた。 「は、助かるだ? そりゃあ良かったな!」    背中に罵声を浴びせられ、橘花と霞はびくりと肩を震わせた。
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