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「そもそも、私達がこうして船を出せたのは氷雨さん達が隠形を掛けてくださったからですが、海上警備隊の隙をついて船は出そうと思えば、出せなくはないですからね。ここは道路と違って一本道ではありませんし」
「うーん、そうねぇ……。なら、隠形を使ってクルーザーに侵入。異常がないか調査、確認で、どうかしら?」
「それでいいと思います」
氷雨が何かまだ言いたそうだった。碧が視線を向けると舞香が慌てた。が、それが十割方、冗談ではないことは分かった。
「そうねぇ。直感的に感じるのよ。ここは危険だってね」
そう言って彼女は青空向けて弓を引き絞る構えを取った。
真っ白な肌にうっすらと光り輝く鱗状の刺青。生きているかのように蠕動する。
「急々如律令――「闇」を「高」を駆ける淤加美神(おかみしん)黒龍大神、白龍大神に願い奉る」
氷雨の体に憑いている龍神の加護は、二本の矢となって、空に放たれた。それは何かを穿つこともなく、曲線を描き、二頭の龍となる。
黒龍大神、白龍大神。同一の龍にして対の龍。水の守護神。
黒と白の龍は互いの体を交わらせ、一つの体を成していた。
白は白ゆえに黒を栄えさせ、黒は黒ゆえに白を栄えさせる。
陰陽の調和がそこにはあった。
オカミノ神(かみ)とよばれる水の神が、氷雨に授けた加護であり、式神である。
「久しいな、主よ」「我の力ではなく、我そのものを呼び出すのは」
「娘の式神に頼んでも良かったんだけど、そうすると碧と舞香の守りが手薄になってしまうからね」
氷雨の言葉には娘を思う優しさだけではない、我が身を削る覚悟があった。
「娘の守りを手薄にさせないために、自身の戦力を割いた」
娘の前で、あえて言わないが、つまりはそういうことだ。
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