第三章 鬼哭啾啾の亡霊

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「私の式神を上空から監視に当たらせる。黒龍大神と白龍大神は私の式神でもあり、“憑き物”でもあるから、何か起きても、お互いに分かるわ」  氷雨の直感は鋭い。が、今回はその直感力をもってしても、何が起きるのかまでは把握出来ない。だからこそ、式神を総動員して索敵させようというのだ。 「ただし、その分、碧にも舞香にも働いてもらうからね」  「はい!!」  二人の巫女は同時に答えた。  碧は五頭の蛟を、舞香は竜姫――蜃(しん)を召喚する。  舞香の式神である蜃は、善女竜王の力を宿しているのだが、今はその力を解放していない。美しい藍色に龍を模った金と銀の紋様の着物に身を包んだ、紅髪の乙女の姿をしている。   「蜃、隠形術、蜃気楼を」   「かしこまりましたわ」  舞香の主命に、式神である蜃は即座に遂行する。岡見学園での一見以降、二人の連携は見違えるように変わった。  蜃は印を結び、人間には聞き取れない、古(いにしえ)の龍の言葉で、呪文を発していく。  彼女の指から発せられたのは薄白い霧だった。それを通して見える物は、色彩というものが無かった。物体の輪郭さえも曖昧。  その霧に向かって進み、舞香は包み込まれた。途端に彼女の姿は誰の目にも不鮮明となった。霊気も消える。
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