第三章 鬼哭啾啾の亡霊

32/83
前へ
/183ページ
次へ
 瑠璃は驚いて息を呑んだが、続けて碧、氷雨と霧に向かって進むのを見て、隠形の術なのだと理解したようだ。  瑠璃はおばけみたいになった三人の顔を見回しながら、氷雨らしき姿に話しかけた。 「ねぇ、氷雨さん。こんなに式神出して、クルーザーの中の人びっくりしてない?」 「うん、そうねぇ。こんだけ騒がしくしてたら、気づきそうなもんだけどね」  そもそも、黒龍大神と白龍大神には隠形も施されていない。相手が術者ならば、血相を変えて出てきそうだし、一般人でも物音で何があったか確かめに来そうなものである。  それを狙っての式神召喚だったのかもしれない。 「罠にしては妙だし、皆でお昼寝でもしてるのかしらね?」 「いや、船の操縦をしている人が気付き……自動操縦という手もありましたね。この船の速度を考えると、その可能性も否定出来ませんし」  なんにせよ、乗り込まなければ何も分からないということだ。ボートを笹井と瑠璃に任せ、上空は黒龍大神と白龍大神の二頭に任せ、碧、舞香、氷雨の三人は乗矯術でクルーザーへと上がった。  地面を蹴り、宙でさらに跳び、身体を捻り、甲板へと着地する。  着地と同時に双子は、左右に散開し、壁に張り付いた。  その間に立つのは氷雨。身を隠すこともなく、船内を見回す。 「ふむ、どうやらこれは個人所有のクルーザーみたいね」 「うわ、それってすっごくお金持ち……」 「二人共……もう少し、緊張感というものはないの?」  氷雨と舞香の会話に、碧は思わず頭に手を置いた。蜃が気の毒そうにこちらに視線を向けてくる。 「ま、そう言わず。もっと周りに身を向けてみなさい? この船、お客を乗せるにしては物が散らかってるじゃない」  言われて碧は周りに気を配る。デッキ上にはバーベキュー等に使われるコンロ、炭焼き機、その横には釣り道具らしきものが散在している。  他にもサーフボード、三人位がどうにか座れるソファーチェアとその横には小さな机が置かれている。  その配置の具合は、確かに自由度が高い。  客船をホテルの一室と例えるなら、こちらはマンションの個室だろうか。学生が友達を招いてどんちゃん騒ぎした後のような散らかりようだ。
/183ページ

最初のコメントを投稿しよう!

35人が本棚に入れています
本棚に追加