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「どうも、この船の人達はりゅうぐうでの騒ぎを知らない様ね」
「それは流石におかしいのでは……」
言いかけて、碧は気づく。
そう、ここはおかしいのだ。
野次馬感覚で“りゅうぐう”へと近づこうとしているわけではなく。
警察に取り締まられることもなく、危険な海に出てきたのだ。
まるで何事も起きていないかのように、宴を楽しみに。
だけど、それならば。
「なんで、ここには誰もいないのかしらね」
そうして、初めて碧と舞香は怪異の断片を感じ取った。
霊的には至って穏やかな筈だが、理性で考えれば考える程におかしい。
こんな事は初めてだった。
「いい経験ね。霊気の乱れが無いからと言って、怪異が存在しないということにはならないのよ」
氷雨の言葉を本当に理解できたかどうかは分からない。ただ、碧は気を引き締めなおして周囲に注意を向けた。
どういうわけか、霊的な索敵は意味を為さないらしい。
自分の実力不足のせいか、それとも霊術が通じない相手だと割り切るしかないのか。
恐らくは後者だろう。
陰陽師の利点である霊気を見る力を活かせないのは痛いが、氷雨は「いい経験」だと言った。まだ、何か見落としているものはないか辺りを見回す。
「なんていうか、全体的にダサい感じがするよね。あのサーフボードのサインとか」
舞香が指さしたサーフボード。そこに描かれているのは、アニメのキャラクターだ。胸と腰がやたら強調されたアメコミ風のタッチの女海賊だ。ダサいと舞香が言いたくなる気持ちも分からないでもなかった。
こうしてみると、周りにある物は、一昔前のというか、自分の親の世代の流行物が多い気がする。
怪異との関連性は高いとみるべきか――いや。
「だ、ダサいとは何よ。あれは、キャプテン・リリィ……、ヤッタルマンの宿敵よ」
「いや、知らないし……」
舞香の冷めた態度に、氷雨はその魅力を伝えようと必死になっている。
そういえば、母の本棚にそんな名前の漫画が何冊かあったような気がする。少女漫画風の絵柄が好みな碧からすると、その魅力がいまいち伝わってこないのだが。
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