第三章 鬼哭啾啾の亡霊

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「とりあえず、ここには何も無さそうね。中を調べましょう」  ブリッジへ入るドアは鍵も掛かっておらず、簡単に入ることが出来た。中に入った途端、三人は感嘆の声を上げた。  船の中のホテル、或いはレストラン、バーとでも言えばよいか。  チーク材を用いて作られた船内は全体的に落ち着いた雰囲気を醸し出していた。  大人数で座れるソファに、長いテーブル。奥には、ドリンクカウンターもある。やや薄暗い船内を照らすのは外から漏れる白い光だけ。  螺旋状の階段が天井に向けて伸びており、スカイデッキへと続いている。    いかにもセレブが好みそうな清潔感溢れる空間となっていた。  美しく、  穏やかで、  何もかも揃っているが、  誰もいない世界。  そのことに言い得ない不安感がある。  人が描かれていない画の中に吸い込まれたかのような感覚。 「誰もいないのかな?」  舞香の言葉に、碧はハッと我に返る。 「部屋はここだけではない筈。操舵室とか、エンジン室とかあるんじゃないかしら?」  氷雨はそう言って、操舵室があるであろう部屋のドアに手を掛けた。 「ん、ここだけ開かないみたいね」  その時だった。
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