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――ヒタ。
――ヒタ。
裸足で床を歩く音。
一同が振り向くと「それ」は止まった。
白い足。
血の気のない肌で、骨に皮を張りつけたかのような、か細い足。
それだけだった。
そこにあったのは一本の足だった。
「な……」
「いっ……!!」
碧と舞香が愕然としつつも、身構えることが出来たのは怪異に慣れていたが故だった。一般人であればまず発狂していたところだろう。
得体の知れない恐怖。
頭が考える事を放棄してしまいたくなるような狂気。
「お母さん、これ一体……」
舞香が堪えかねて聞こうとすると、氷雨は静かに人差し指で口を抑えた。その視線は天井に向けられている。
ガリ……。
何かを爪で引っ掻くような音。
天井を這い回る白い手。
一本、二本、三本、四本、五本、六本、七本、八本、九本、十本――、
蜘蛛が壁から這い出るように、指先を触覚のように蠢かせながら天井を這いまわり、天井を埋め尽くし、それでも増え続けていく。
ぼとりと、一本の手が天井から押し出されて落ちる。
テーブルの上に置いてあったボトルが手に当たって割れる。
割れたボトルからは赤い液体が零れた。
ワインのようにも見えたが、ワインにチョコレートを混ぜたかのように濃厚な質感を持っていた。
床に染みを広げていき、それは碧達の立っているところにまで達し、更に壁を伝って部屋全体を赤く染めていく。
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