第三章 鬼哭啾啾の亡霊

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――ヒタ。 ――ヒタ。  裸足で床を歩く音。  一同が振り向くと「それ」は止まった。  白い足。  血の気のない肌で、骨に皮を張りつけたかのような、か細い足。  それだけだった。  そこにあったのは一本の足だった。 「な……」 「いっ……!!」  碧と舞香が愕然としつつも、身構えることが出来たのは怪異に慣れていたが故だった。一般人であればまず発狂していたところだろう。  得体の知れない恐怖。  頭が考える事を放棄してしまいたくなるような狂気。 「お母さん、これ一体……」  舞香が堪えかねて聞こうとすると、氷雨は静かに人差し指で口を抑えた。その視線は天井に向けられている。 ガリ……。  何かを爪で引っ掻くような音。  天井を這い回る白い手。  一本、二本、三本、四本、五本、六本、七本、八本、九本、十本――、  蜘蛛が壁から這い出るように、指先を触覚のように蠢かせながら天井を這いまわり、天井を埋め尽くし、それでも増え続けていく。  ぼとりと、一本の手が天井から押し出されて落ちる。  テーブルの上に置いてあったボトルが手に当たって割れる。  割れたボトルからは赤い液体が零れた。  ワインのようにも見えたが、ワインにチョコレートを混ぜたかのように濃厚な質感を持っていた。  床に染みを広げていき、それは碧達の立っているところにまで達し、更に壁を伝って部屋全体を赤く染めていく。
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