第三章 鬼哭啾啾の亡霊

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「流石、霊的な感応能力は碧の方が高いわね」 「……」  氷雨の称賛に目を逸らす碧。そして、舞香はそれがどういう意味なのかをようやく理解した。  姉は物の怪の“内側”を見てしまったのだ。  物の怪は負の気によって作られる。人間に関わらず、あらゆる生き物が負の気を発するが、特に人間の場合は負の感情によって生まれることが多い。  物の怪には感情はない。せいぜい、感情だった物の残り滓があるに過ぎない。  だが、もしも、それが単なる負の気ではなく、負の気を発する人間の魂そのものを核とした物の怪であれば、感情のような物があってもおかしくはない。  ただし、あくまでも感情のような物だ。  人間を核とした物の怪は多くはないが、決して珍しい事象ではない。  亡霊などはその類だし、鬼の生成りも限りなく物の怪に近い存在だ。  つい最近にあった事例では魂呼ばいの怪異を起こした中原常社は亡霊だったし、大江晃は人間を媒体として、負の気が集まったことで“成った”鬼である。  彼らはまだ話が通じるだけの人間性が残っているあるいは、全てが残っている人間だった。  だが、負の気に、或いは怪異に完全に取り込まれた人間に、理性は残されていない。  あるのは、最後に感じた負の感情。  陰陽師であれば、その負の感情の根底にあるものを、探ることが出来る。だが、それは代償が伴う能力でもある。  荒れ狂う感情の渦は、術者の脳内にダイレクトに伝わってくる。感応性が高ければ高い程、精神への汚染も深刻なレベルとなるのだ。  そして、それが人間が理解できる範囲での感情ならば、脳へのダメージも軽く済むのだが。
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