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「狂ってた……あの物の怪。助けを求めているようだったけど……、私達を喰らおうとする欲求もあって……、とにかく滅茶苦茶」
狂っているという意味ならば、今までに戦ってきた物の怪も狂ってはいた。つい先日襲ってきた鬼は、碧と舞香を喰らおうとしていたし、物の怪というのは大概が凶暴なものだ。ただ、彼らの行動は欲求に忠実でもある。
沙夜は、春日月を殺したいという欲求の元に行動していたし、中原常社は、沙夜を復活させるためという欲求に基づいて行動していた。
目的というと、おかしな話だが、とにかく彼らには彼らなりの行動するための理論があったのだ。
「恐らく、この船もりゅうぐうの怪異に巻き込まれたのね。で、船の中にいた人達はパニックに陥いり、それがそのまま物の怪と化した」
舞香はそっと気遣うように碧の肩に触れた。碧は震えていた。怪異に呑みこまれた人達の恐怖が、彼女の精神を直接汚染した。その事実が、見た目にもはっきりとわかる。
――こんなの、怪異の影響の末端でしかないのに……。
りゅうぐうの怪異が、完全に解決されず、その場を封印するに留めたその理由が今更になって痛感と共に理解できる。
これは陰陽師の手にさえ余る程の規模だ。
海神によって、引き起こされた怪異。
いや、違う。
歪な形で、
海神を祀り上げた人間達。
触れてはならぬ物に触れ、
起こしてはならぬ物を起こした事。
それが、本来は神聖であるものを、
怪しく異なる形へと変貌させてしまったのだ。
その事実が頭にゆっくりと浸透し、遅効性の毒のように、舞香の心を蝕んだ。
――だけど、誰が何のために?
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