第三章 鬼哭啾啾の亡霊

44/83
前へ
/183ページ
次へ
「――おん めいぎゃ しゃにえい そわか!! 蜃気の楼、たちまち辺りを包まん!」  主である舞香を通して、善女竜王――蜃に霊力が受け渡される。 「ここは、嫌いですわ。とっととお暇させていただきます」  言葉と共に蜃の口から霊力の霧が肉塊へと吹きかけられる。  物の怪達は、喰らう対象を見失い、狼狽えていた。  その結果に、茫然とする舞香を氷雨が脇に抱え、碧が空けた穴から飛び出す。 「もう、やるならやるっていいなさい!!」 「すみません、母さん。あれが精一杯だったの。だいじょーぶ? 舞香」  外の空気を吸って、ようやく舞香は意識をしっかりと戻すことができた。  まるで生まれ変わったかのような気分だ。 「う、うん。大丈夫。だ、だけど、これからどうするの?」    舞香は恐る恐るクルーザーを見下ろす。  クルーザーは最初に見た時と同じように航行し続けている。  横づけしながら走行し続けている笹井のボートもある。 「いっそ、あの船、沈めてしまってもいいかも……ってなによ、そんな顔で見ない!」  氷雨の呟きは殆ど冗談だったようだが、この母ならやりかねないとばかりに、娘達は半眼で見つめた。 「――うん、まぁ私もあの船沈めちゃいたい気分だなぁとは思ってるけど」と舞香はため息を吐いた。  胸の動悸が収まらない。だが、これが怪異の断片に過ぎないことは彼女にもわかっていた。 「笹井君と瑠璃ちゃんを回収。んで、あの朴念仁に連絡取るわよ、……クルーザーでこれほどなら、客船の中は阿鼻叫喚、物の怪の巣窟と化しているわね」
/183ページ

最初のコメントを投稿しよう!

35人が本棚に入れています
本棚に追加