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「――おん めいぎゃ しゃにえい そわか!! 蜃気の楼、たちまち辺りを包まん!」
主である舞香を通して、善女竜王――蜃に霊力が受け渡される。
「ここは、嫌いですわ。とっととお暇させていただきます」
言葉と共に蜃の口から霊力の霧が肉塊へと吹きかけられる。
物の怪達は、喰らう対象を見失い、狼狽えていた。
その結果に、茫然とする舞香を氷雨が脇に抱え、碧が空けた穴から飛び出す。
「もう、やるならやるっていいなさい!!」
「すみません、母さん。あれが精一杯だったの。だいじょーぶ? 舞香」
外の空気を吸って、ようやく舞香は意識をしっかりと戻すことができた。
まるで生まれ変わったかのような気分だ。
「う、うん。大丈夫。だ、だけど、これからどうするの?」
舞香は恐る恐るクルーザーを見下ろす。
クルーザーは最初に見た時と同じように航行し続けている。
横づけしながら走行し続けている笹井のボートもある。
「いっそ、あの船、沈めてしまってもいいかも……ってなによ、そんな顔で見ない!」
氷雨の呟きは殆ど冗談だったようだが、この母ならやりかねないとばかりに、娘達は半眼で見つめた。
「――うん、まぁ私もあの船沈めちゃいたい気分だなぁとは思ってるけど」と舞香はため息を吐いた。
胸の動悸が収まらない。だが、これが怪異の断片に過ぎないことは彼女にもわかっていた。
「笹井君と瑠璃ちゃんを回収。んで、あの朴念仁に連絡取るわよ、……クルーザーでこれほどなら、客船の中は阿鼻叫喚、物の怪の巣窟と化しているわね」
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