第三章 鬼哭啾啾の亡霊

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――ま、確かに深く関わり過ぎてるのかもな。  目の前に迫る巨大な船を見下ろしつつ、思った。 船に乗り込んで戦うなど、アメリカの映画の中でしか見たことがない。  大峯山の一件がつい昨日のことだけに、身体はだるいのに気持ちだけが高ぶっているという変な調子だった。  晃との対決、叔父の博人の復活、そして、虚無の徒との戦い。  頭の中で整理がつくのを、世界は待ってくれない。  それは多分、この先もそうなるだろう。だから、一真は「今」起きることをしっかりと心の中に留めておく必要がある。 舟は客船の上空、進む方向に向かって並走する。客船にはヘリポートのような空から来る物を収容する設備は備わっていない。だが、空を見上げるためだろうか、展望式のプロムナードデッキが、船の後部に備わっていた。 「豪華客船――ウミガメ。竜宮と栃煌港を繋いで航行するらしい。竜宮にウミガメとは、分かりやすい」  手元のスマホをいじりながら、晃がそう説明した。一真は怪訝に眉を潜めた。 「よくインターネットが繋がったな」 「あの船にはwifi機能があるらしい。船内でインターネットが使えるようにな。それがまだ生きているんじゃないか? 俺もまさか使えるとは思わなかったが」 「ふーん、なんだかあの船にはおかしな気配を感じるわねぇ」と義賢も眉に手を当て、すっと目を細めた。 「陰と陽二つの世界が入り交じり始めてる。さらに悪いことに、それが正常の状態であるかのようになり始めているわね」 「えっ……」  今まで何度と怪異を経験してきたが、正常と異常の二つの状態は、はっきりと分かれていた。 「過去のニュースによれば、ウミガメは怪異があったその日に消息を絶っているらしい。事故ってことで片づけられてるが、当然沈没したっていう報告も無く、この船を所有していた会社は、遺族からの賠償やら、裁判やらで追及されて最終的に潰れたらしいが――」
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