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「その客船は怪異の中で、まだこうしてさまよっていたってことか?」
舟から客船へと降り立ち、一真はそう訊ねたが、晃にも確かなことが分かるわけではない。
「あるいは今見えているすべてが幻ってこともあるかもしれないわね」
まさに幽霊船と呼ぶにふさわしい。
プロムナードデッキから三人は手身近なドアから船内へ入ろうと試みるのだが―開かない。鍵でも掛かっているのか。
「あかねぇ……」
と、ドアノブをがしゃがしゃと動かしていた一真を押しのける晃。そして、
「ふん、どいてろ――」
身体を回し、蹴りをドアにぶち込んだ。
ドアがひしゃげ、亀裂が入り、内側へと吹き飛ぶ。
唖然としている一真を置いていくように、晃と義賢が中へと進んでいく。一歩遅れて一真も中へと続く。
中は暗闇だった。
「さて、で、どこから何を調べたらいいんだ?」
「そうね、ネットまで繋がっているところを見るに、この船は幻覚ではないようね。かつての竜宮の怪異に近い場所にいて、それで怪異に船ごと取り込まれたという感じかしら?」
義賢の推測に、晃が相槌を打つ。
「でしょうね。ウミガメが消息を絶ったのが、怪異があった時。怪異があった一帯で全く同じような事が起きていて、巷じゃ、神隠しだなんて騒がれてるが――その通りみたいだな」
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