第一章 始まりは終わりの地で

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「死にやしませんかね、彼女」  八鹿が浅く息をするのを見ながら、独り言のように後ろにいる少年に訊ねていた。 「お前さんも存外心配性な男よの。大丈夫じゃよ。役行者の奴も仕組みをいじったのみで、呪詛そのものを変じたわけでないようだからの」 「つまり、本来の目的通りに作動させてもああなってたというわけですか」  一条の三姉妹は数ヶ月前にある騒動を起こしていた。祓滅しようとした亡霊に誑かされ、一人の少女を殺そうとしたのだ。三人とも現陰陽寮を追放されることこそなかったものの、裏切り防止用の霊具を胸に仕込まれていた。  発動すると装着者の霊気を奪い行動不能にするという霊具で、本来なら現陰陽寮によって管理されている筈なのだが、霊具は役小角をはじめとする敵の霊術者集団によって機能を乗っ取られ逆に利用される結果となった。 「ごめん……なさい」  八鹿が静かに涙を流し、唯一動く口でそう告げた。大峯山での決戦の前にさらわれた彼女は、霊体として存在する沖博人、そして現陰陽寮の裏切り者である土御門伊織が用意した魂を操る霊術――泰山府君祭の祭壇の前に引きずり出された彼女は恐怖に打ち負かされた。  裏切り防止用の霊具を乗っ取ったという博人の言葉を八鹿は疑わなかったという。仮にその言葉が無くても、博人に従わされてしまっていただろう、とも。
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