第三章 鬼哭啾啾の亡霊

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 晃が一真を突き飛ばし、飛びかかってきた客を蹴りで押し返そうとする。 「っ!! なんて力だ!」  腹に蹴りを喰らった客の身体が、穢れた陰の気の靄に覆われていく。真っ赤に染まる瞳が何かを恐れるように見開かれる。 「えぇいっ!! 温存とか言ってる場合じゃねぇぜっ!」  鬼の唸り声を伴った言葉と共に、晃は自らの力を解き放った。  衝撃で、客――物の怪が後ろに吹き飛ぶ。  鬼を模ったかのような角と尾毛をあつらった兜に、黒塗りの胴当て、脚には佩楯(はいだて)脛当て、そして腕には手甲と籠手――その両の籠手から肩にかけて、薄く広い刃が外側に向けて取り付けられていた。血のような紅と黒の刃。  晃の持つ鬼の気。彼が幼い頃に住んでいた村の人間の無念と晃自身の怒りの気。  そしてその鬼の気を使った身固めだ。  陰陽師や一真が使う身固めも霊気を身に纏う技だが、目に見えるような変化は現れない。  晃の纏う身固めは、霊具として使われる狩衣に近いが、それを個人の霊気だけで具現化させるのは尋常ではない霊気がいる。   「ま、こっちの方がしっくり来るわね」  義賢が右手に長刀を左手に太刀を具現化させて構えた。  彼女の長い黒髪が白い霊気にゆらゆらと波立ち、頭から角が突き出る。 「……今まで見た怪異とも違うが、一体どうなってんだ」  一真はいつものように破敵之剣を構えた。  いつものように、だが、今までとは明らかに違う点があった。 「くくっ、ようやくいっぱしの戦い方ができるようになってきたなぁ?」  天が嬉しそうに唸る。そう、今まで一真は破敵の剣から霊気を受け取り循環させることで、霊力を使っていた。  だが、今は違う。  己の身体、五臓六腑に染み渡る霊気を循環させて、霊力を作り、破敵之剣に送り込む。  剣そのものに宿る霊力と、一真の霊力が合わさり、刃からは金色の霊気が燃えるように波立ち、稲妻のような光が迸っていた。  五臓の内の賢臓は水気を生じる。その水気は木気を生ずる。木気は肝臓部分に該当する気だ。  木気には草木の気以外に雷の気を呼び寄せる力がある。 「いつまでもお前に負担掛けるのは悪いからな!」
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