第三章 鬼哭啾啾の亡霊

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 以前の一真は霊気を作ることに意識を向けていた。全ての動きを思い描き思い通りにしようとした。だが、それは間違った使い方だ。  血管に流れる血液に意識を集中させずとも、心臓は動く。   意識を集中する。高まる霊気の流れに指向性を与える。  そして、後は流れに自身の身を委ねる。  霊気を導くのではなく、霊気に導かれるのだ。  三人の術者がそれぞれの力を纏うのと同時に、ショッピングモールに変化がおとずれた。  影が侵食を始めた。  血が滲むように、或いは蛇が獲物に忍び寄るように一真達に近づいていく。  実体化し、床からぬっと鎌首をもたげた影が三人を囲う。 「で、作戦は?」という晃の質問に、一真は一瞬考え、 「追撃されても面倒だ。倒すか戦闘不能にして、目的地に向かおう」 「はっ……そういうことなら、全力で行くぜっ!」  鬼の絶大な覇気が晃から放出されていく。 「おん・あらたんのう・うん・そわか!! はぁああああああああああああああああああああっ!」 三鬼大権現(さんきだいごんげん)――山岳仏教の信仰対象となる鬼神の真言。 その身に鬼神の覇気を宿した晃は、飛びかかってくる影の蛇の身体を素手で掴み、握りつぶす。 その横で一真は稲妻を纏った霊刃を振るい、襲い来る影の蛇を纏めて薙ぎ払う。 ――行けるか。  晃の拳が、脚が宙で弧を描き、後から後から湧き出てる蛇を消滅させていく。勢いを殺し切れなかったものや撃ち漏らしたものは、一真が一匹とも残さず斬り捨てた。  義賢も右手の長刀、左手の扇で向かってくる蛇を、蠅でも叩き殺すかのように、斬り伏せていく。だが、彼女はあまり戦闘に積極的ではない。彼女の関心は向かってくる敵ではなく、この空間そのものにあるようだった。
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