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「どうやら、船体そのものが幻というわけではなさそうね」
霊視で確認していたらしい。怪異の中には、地形をまるごと変化させてしまうものもある為だろう。
「けど、この船体にとり憑いている邪気は半端じゃないわ。ここにいる蛇をいくら倒してもキリがないと見るべきね」
「だったら、そろそろここを抜け出すとしようぜ。ここで延々と無双するのもそれはそれで楽しいがな!」
晃がそう告げた時には、既に周囲全体が蛇に囲まれていた。
巨大な影から触手のように蛇が何十、何百と押し寄せてくる。
「ちっ、しつけぇな。こいつら……」
晃が毒づく横で、一真は下を見ていた。
「なぁ、晃、義賢さん。嫌な気は下から来てるんだよな?」
「えぇ、そうね」
「お前もそう感じ取ってたんじゃないのかよ?」
「いや、なら問題ないんだ」
怪訝に返す二人に、即答すると一真は床に破敵之剣を突きたてた。ぐるりとその場でコンパスよろしく円を描くと、床は重力に従って下へと落ちた。
盛大に何かが割れる音と、砕け散る音、そして晃の叫び声が重なる。一真は足裏に霊力を集中、乗矯術を使い、階段でも降りるかのように空中から下の階へと降りた。
そこは食堂のようだった。テーブルに、白いテーブルクロス。床に盛大に散らばっているのはシャンデリアの残骸だった。そして、晃が床――この階にとっては天井――の瓦礫に身体を埋めていた。
「大丈夫か?」
「お前が衝動的に作戦思いつくやつだってのは知ってたけどよ――次からはやる前に言いやがれ」
一真が差し出した腕を掴み立ち上がる。晃の言葉に、一真は苦笑した。
中学生だったころ、よく二人で悪さしてた時も、悪知恵を働かせて作戦を考えていたものだが、一真がその場で思いついたことをその場で実行してしまう為に、晃がひどい目に遭ったことがままあった。
「そうする」と一真は答えた。中学生だったころと同じセリフだ。
「ふーむ、でも、ここじゃないみたいね。だいぶ近づいたけど」と、何事も無かったかのようにふわりと降り立つ義賢。が、次の瞬間その双眸が緊迫に歪んだ。
「二人とも、走って!」
なんでだ? そう聞こうとした一真はぎくりと身を震わせた。食堂の奥、恐らくはキッチンであろう場所に何者かが立っていた。
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