第三章 鬼哭啾啾の亡霊

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 反射的に、右手が動き、目にも留まらぬ速さで九字を切った。宙に浮かぶ霊力で出来た鉄格子。  巨大な化け物が光の檻の中でのたうち回る。動きを完全に止めたかに見えたが、その檻も見る見るうちに綻びが生じていく。 「ちっ、なんだ、こいつ!!」 「奴はこの船に残る負の気を貪り喰らう物の気よ……、何百という気を取りこんで凄まじい力をつけているわ」 「ちっ、だったら猶の事、ここで一発ぶちのめしておくべきじゃねぇか!?」  晃が、言うや否や怪物に突進する。鬼の籠手を纏った拳を怪物の腹に叩きつけると同時に、鬼気を解放。怪物の腹に穴が開いた。 ――しかし、 「グェアアアアア!」  結界を揺さぶる程の暴れぶり。後、数秒と保たないことがわかった。 「東海の神、名は阿明(あめい)、西海の神、名は祝良(しゅくりょう)、南海の神、名は巨乗(きょじょう)、北海の神、名は禺強(ぐきょう)、四海の大神、百鬼を避(しりぞ)け、凶災を祓う!!」  五芒星が宙に浮かび上がり、凄まじい閃光がその場にいた者の視力を一瞬にして奪った。  安部晴明その師匠が使ったとされる百鬼避けの術。  その効力は絶大だった。目の前の物の怪は視力を失い、あらぬ方向を向いて暴れまわっている。 「ちょっと! 私も一応『鬼』なのよ! やるならやるって言いなさい!」 「俺には鬼が憑いてるって前に言わなかったけか?」  鬼女と鬼憑きの2人が目を抑え、口々に文句を言う。 「あっ、すまん……でも効果あったろ?」 「あぁ、絶大だな! 今まさに体感してる。奴が目を回してる隙に逃げるぞ!」  術に巻き込まれ額を抑えつつ、晃が提案し、三人は食堂の廊下を疾走した。
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