第三章 鬼哭啾啾の亡霊

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 扉を抜けると同時に、閉めた。扉の向こうでは視力を取り戻したであろう物の怪が唸り、暴れまわる様子が振動と音で伝わってくる。  薄暗い廊下だったが、一真と晃の2人はそこに何もいないことを確認してホッとした。 「助かった……か」  一真は自分の両手を見下ろして呟いた。助かったのは間違いない。  一真の術が、敵を足止めした。確かに、間違いない。  だが、実感がない。一真には自分が術を使ったという感覚がつかめずにいた。  頭と身体を切り離されたかのような感覚。身体と思考がバラバラに動いているかのような感覚。  しかも、それは霊力を増した先程のような術を使用した時に起こる。 ――あれは本当に俺がやったのか? 「助かったことには感謝するわ。けど、ここでじっとしているわけにもいかないわよ」  義賢の言う通りだ。ここで止まっているわけにはいかない。嫌な気は船の中心部から発せられている。これを放置するわけにはいかない。 「行こう」  長く続く通路――床には赤く長い絨毯、壁には水彩で描かれた風景画が並んでいるが、誰も目を留めない――を抜け、STAFFONLYと札の掛かったお洒落なゴシック調の扉の前に三人は行きついた。  何かを言うよりも前に、目の前の扉が横に畳まれるように開いた。金色に輝く大きな箱とでも表現しようか。それがエレベーターであることに、一真は一瞬気づかなかった。 「なんていうか、成金趣味って感じだな」 「出来た年代を考えれば、別段不思議なことでもないわ」  20年前――と、一真は考えた。その時の陰陽師達は何を考え、行動したのか。  三人はエレベーターへと乗り込んだ。ガラガラと扉が横へ閉じる。そのまま下へと降りていく。先程のシッピングモールと同じく、何かがあるかもしれないと警戒していたが、何も起きなかった。  チンという通達音と共に、扉が開く。外は上の豪華な造りとは縁がないようだった。無機質に通路が続く船底。エンジン類や電源類の機材が並ぶ他、コンテナが積み込まれていた。竜宮へと運び込む物資だろうか。 ――だが、それだけではない。むしろ、それ以外のものの方が目立っている。
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