第三章 鬼哭啾啾の亡霊

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†††  空を覆う雲霞は、渦を巻き、やがて歪な霊気を作り出し、それはやがて空の下へと歪な世界を広げていく。かつて、海の神に捧げられた――歪に仕組まれた『願い』を体現するかのように。  地上に、海上に残るその当時のままの思念が蘇り――崩れていく。泥で固めた人形のように、人を象ったかと思うと崩れゆく。  そんな姿をりゅうぐう都市の中心部に建てられた電波塔の上から見下ろす者がいた。 「……再び呼びに来たぞ、道間の生まれ変わり、夢現(むげん)がの」  男は鬼の面の奥底で枯れた声で笑った。不浄の風にマントをたなびかせ、彼はしなびた指をかたかたと上げて、何かを呼び込んだ。 『夢現様……』  一羽の烏が肩に留まる。 「何か」 『我らの結界内に曲者共が侵入いたしました』 「うむ……見ておる。十二天将、天后……十二天将の内で「最多」の戦力を有する陰陽師『海賊』か」 『い、いかがなさいますか』 「自身で考え、好きなように対処するがよいぞ――ただし、連中が私の計画に介入するようなことがあれば……分かっているの?」  夢現の答えはにべも無かった。彼の興味は迫りくる敵ではなく、眼下のワタツミ神に向けられている。 「陰陽之巫女めが、くだらぬ呪をかけよってからに……、20年もの年月を無駄にしたわ……博人よ、貴様には感謝せねばなるまい」  沖博人。彼と彼の率いる虚無の徒がいなければ、彼の計画は再始動すらできなかったであろう。 「我が盟友にして、永遠の怨敵――晴明よ。幾年幾月幾日の時を超え、再び私は還ってきたぞ」  枯れたような声で呟く。  名を変え、姿を変え――その陰陽師は蘇った。 「まずは挨拶じゃ……、受け取るがよいぞ……?」    夢現の下で、龍気を纏った少女はまどろんでいた。  数多の人間の、歪んだ想いを具現せんと。  ワタツミの巫女の掟を愚直に果たさんと。
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