第三章 鬼哭啾啾の亡霊

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†††  月は、甲板の上を行ったり来たりとしていた。30分程全く同じ歩調で、同じところで躓き……といった挙動を繰り返していた。  陰陽師としての彼女の弱点を如実に表している行動とも言えた。刀真は、何度か声を掛けようかと考えて、諦めた。 ――戦いが始まればそちらに集中するだろう。  彼女は強い。しかもその力は増している。日を追うごとに、死闘を生き延びるごとに。こうして仲間を心配する一方で、その霊気は神刀のように研ぎ澄まされている。  仲間を想う気持ちが高まる程に、彼女の霊気も高まっていく。  精神論の話ではない。彼女には月の神の加護がある。想いが、祈りが、願いが、加護の力を強くする。  月が、その力を制御できるか否かに不安を覚えることも度々あったが、沖一真と出会い、共に数多の戦いを乗り越えてから、彼女は変わった。    己の加護と呪い……二つの面を持つ力を振るう事を、ただ恐れていた時とは違い、向き合うことが出来るようになった。 「刀真。間もなく目的地上空に辿りつくぞ」  南雲の言葉に、刀真は現実に引き戻された。月がさっと振り向き、南雲に尋ねる。 「あ、あの、氷雨さんや、義賢さんから連絡は?」 「ない」  にべも無く南雲は即答した。月の感じている不安には気づいていないかのように、彼は自分の腕時計を見ていた。横で天后がふふと笑う。 「月殿、心配は分かるがの、もうちっと、彼らを信頼してやっても良いのではないかの?」 「あ、はい……その信頼はしてます。力も……」 「ならば、我々は我々のすべきことを為すまでよ。雑念を捨て、陰陽師となれ、春日月よ」  にっこりと微笑んで、天后はそう告げた。南雲は霊符を抜いていた。
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