第三章 鬼哭啾啾の亡霊

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「彼らの到着、報告を待つべきであろうが……、先程から怪異の中心地点から異様な霊気の高まりを式盤が感知している。物の怪が上陸地点を占拠しているようだ」    南雲は舟の床、その下を指差す。物の怪の怨嗟の気が、地響きのように伝わってくる。 「式神を出して、一掃するとし――」  南雲がそう言いかけ、口を開いたまま言葉を止めた。  月が身を翻し、舟から飛び降りていた。 「やれやれ……」  高まる浄化の霊力を感じつつ、刀真は溜息を吐いた。 ――親子揃いも揃って、似たような思考回路。    地表に広がる邪気が輪状に祓われる。 「……着地地点は確保できたな」  南雲はやはり動じず即座に状況を確認した。その口が少し笑っているように見えたのは錯覚だろうか。 「おやおや、妾の出番が減ってしまうの」  横で天后がむくれながら、その姿を海鳥へと変えた。彼女を中心に、数多の霊符が輝き、舞い、鳥の形へと変わる。 「どれ、月の巫女と競争じゃ」 「任務を忘れるなよ」 「釣れないのう。”かうんと”をしっかりと頼むぞ?」  式神と主の掛け合いを横で聞きつつ、刀真は式盤に目を移していた。 ――この霊気の高まり……、間違いなく、彼は今もこの地にいる。蒼の式神が。
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