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「月」
「な、何!?」
唐突に現実に引き戻された月に、日向はぷふっと笑う。
「以心伝心は、私も望むところだけど、勝手に人の感情と自分の感情をごちゃまぜにしないでよね? ダダ漏れだよー?」
えっと困惑する月に、日向は続けて言う。
「私は、月を信じてる。一真君も他の皆も。20年前とおんなじ結末にしないってね。私だって、まだまだ月達と一緒にいたいもの」
心の奥で深くつながる余り、『月から見た日向』と『日向の本心』が綯い交ぜになってしまったらしい。少し恥ずかしくなりつつも、月はしっかりと答える。
「うん……! 私も。だから、ここで何があったのか、まずはそれを突き止める、だよね?」
「よくできましたー」
月の言葉に悪戯っぽく微笑む日向。式神もまた、人間と同じように感情があり、故に人間と通じ合う。
日向(ひなた)を失いたくないのと同じように、母の式神日向(ひゅうが)を取り戻したい。そう思う。
目指すは、儀式があったという竜宮。そのビルだ。護身之太刀 黒陰月影を振るい、霊符を放ち、目につく怨霊を祓い、道を切り開いていく。
彼女の周囲の安全を確保するべく、天后の式神が展開、怨霊を薙ぎ払う。そうこうするうちに、巨大な塔の前へと辿り着いた。
目の前に見える筈なのに、輪郭がぼやけている。物理的にはなんら、問題が無い筈だ。20年前の建物とはいえ、近未来都市を目指して作られた、科学の結晶なのだから。
だが、霊的な目で見ると、ここは根元から腐っている。年月を掛けて蓄積された瘴気。
「……思った通り、彼奴の結界が機能しておらんのう」
日向(ひゅうが)の結界の有無を、天后はざっと見てそう判断した。月もまた結界の類が張られてない事は分かる。
だが、日向(ひなた)は、2人とは違う反応を示していることを、月はすぐに察した。
「いる。彼、先代はここにいるよ――誰かと話している」
霊気によって逆立つ髪、淡く太陽の光に染まる瞳が、その先にいる誰かを見つめる。
日向(ひなた)が日向(ひゅうが)を感知したその時を待っていたかのように、周囲の霊気がざわつき始め、月ははっと視線を戻す。
忽然と、塔の前に1人の少女が現れた。
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