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†††
「ここから出して」
少女は切なげにそう訴えかけてくる。死に装束のように真っ白な着物を着ていた。
少女の声は夢の中で語り掛けてくるように、頭の中で反響する。
少女の姿は輪郭ははっきりといているのに、顔が見えない。
否――
少女の片方の眼球が朧に輝き、見つめている。
「ここから出してよ――願いは叶えたんだから」
真っ黒な絵の具をかき混ぜたように、少女の周囲に渦巻く霊気は異様だった。陰の霊気であることは間違いないのだが、その質は物の怪とも異なる。
「隻眼、もしや――」 と、天后が唸る。
月は少女の声から悟った。
彼女は、自分と同じ境遇の人間なのだと。
そして、彼女が迎えるかもしれない結末の一つなのだと。
生い立ちや周囲の環境も全く違っただろう。だが、彼女の声からにじみ出る孤独は自分と同様の物だ。少女の変わり果てた姿に、どうしても自分を重ねてしまい、手が震え、声が震えた。優しく諭し、導いてくれた父や母や周りの大人たちの言葉が、いつも隣にいてくれた一真や友の声が思い出せない。
天后が月の異変に気付くよりも先に、月は斬撃を放っていた。
「嫌だっ――来るな!!」
月が放った霊気の斬撃は、少女を弔う為でも、浄化するためでもない。
拒否の一撃。
だが、少女の姿は忽然と消え、斬撃はその後ろの塔に当たり、外壁の一部をバラバラに砕け散らすに留まった。
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