第三章 鬼哭啾啾の亡霊

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††† 「ここから出して」  少女は切なげにそう訴えかけてくる。死に装束のように真っ白な着物を着ていた。  少女の声は夢の中で語り掛けてくるように、頭の中で反響する。  少女の姿は輪郭ははっきりといているのに、顔が見えない。 否――  少女の片方の眼球が朧に輝き、見つめている。 「ここから出してよ――願いは叶えたんだから」 真っ黒な絵の具をかき混ぜたように、少女の周囲に渦巻く霊気は異様だった。陰の霊気であることは間違いないのだが、その質は物の怪とも異なる。 「隻眼、もしや――」 と、天后が唸る。  月は少女の声から悟った。  彼女は、自分と同じ境遇の人間なのだと。  そして、彼女が迎えるかもしれない結末の一つなのだと。  生い立ちや周囲の環境も全く違っただろう。だが、彼女の声からにじみ出る孤独は自分と同様の物だ。少女の変わり果てた姿に、どうしても自分を重ねてしまい、手が震え、声が震えた。優しく諭し、導いてくれた父や母や周りの大人たちの言葉が、いつも隣にいてくれた一真や友の声が思い出せない。  天后が月の異変に気付くよりも先に、月は斬撃を放っていた。 「嫌だっ――来るな!!」  月が放った霊気の斬撃は、少女を弔う為でも、浄化するためでもない。  拒否の一撃。  だが、少女の姿は忽然と消え、斬撃はその後ろの塔に当たり、外壁の一部をバラバラに砕け散らすに留まった。
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