第三章 鬼哭啾啾の亡霊

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「ですが、私はその時が来ても、簡単に諦めたくはない……です。今度の事も、日向(ひゅうが)さんを母の元に返したい」 「――それが、果たして出来るか。おぬしは今までが上手く行きすぎていた。様々な怪異で誰かを失うことなく、ここまで来た。奇跡と言っても良い……が、それが仇となる日がいつか来よう」  天后の言葉は正しい。これまでが奇跡のようだったという見解も、それが彼女の不安の裏返しとなってることも。 「まぁ、ここで議論を続けても何の益にもならぬの。怪異の鍵となる存在を見つけられた。威力偵察としては上々の出来じゃ」 「だねぇ。お説教の中でちらっと言ってたけど、あの子は贄にされたという見解でいいのかなー?」  日向の挑発的な言葉に月はいちいちアワアワと冷や汗を垂らすが、天后は気にも留めてない様子だ。 「人柱の伝承にもあるじゃろ。神は隻眼の娘を愛するものと人間共は信じておる。あの娘は巫女であると同時に人柱としてワタツミ神に捧げられたのじゃろうて?」 「でも人柱って、本来神様の欲求不満を満たしてあげて、怒りをおさめさせるものでしょ?」 「日向、言い方……」  式神の恐れ知らずな物言いに、月は頭を抱えると同時に、彼女が問いかけた謎についても考えを巡らす。
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