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長倉も詳しいことは知らないのだが、かの有名な陰陽師安倍晴明は霊魂だけの状態で、この世に存在しており、他人の体を通して意思疎通を図るのだという。取り憑かれる方はたまったもんではないだろう。
その存在は、現陰陽寮の一部の幹部達にしか知られていないらしいが、晴明本人は特に自分のことを隠しだてするつもりはないらしい。
その晴明の方針のせいでかえって、部下達は無駄な憶測を巡らせているところなのだが。
「にしても、負傷者の運び込み、ささっと終わらんものかの。これでは我々が上陸できん」
この得意げなしたり顔を殴り飛ばしてやりたい。
「ぶほ!?」
「おぃ、くそガキもといくそじじぃ、ちっとは手伝え」
火龍の拳が晴明の――もとい霧乃の後頭部に容赦なく打ち込まれた。余りに容赦がないので、霧乃の体は耐えられずに地面に突っ伏している。たとえ、晴明の魂が乗り移っていようが、いまいが、物理的な衝撃は防ぎようがない。
「……おい、死んだらどうすんだ」
ぽかんとしている一同を代表して長倉が訊ねると、火龍はケッと口を歪める。
「仮に今ので死ぬとして、死ぬのは晴明のほうか? それとも、元の体の持ち主か?」
実際、どっちが死ぬことになるのだろうと、馬鹿なことを考えつつ、霧乃の体を助け起こした。
「大丈夫ですか?」
返事がない。まるで屍のようだ。
「ちょっ、ほんとに殺したんじゃないだろーな?」
朝霞が顔を青ざめさせながら、近寄ってくる。ぴくりと霧乃の指が動いた。
「……あぁ、ほんと、今ので死んでくれたら良かったのに」
その斜に構えた物言いは、晴明のものとは違う。すっと起き上がった霧乃は乱れた茶髪を乱暴にさすりつつ、火龍を睨めつけた。
「にしても、今のは痛かった。けど、“あいつ”には痛みは通じない。俺の体だからね」
「なる程な。借り物の身体っつーのは便利なもんだ」
「お前も煽るんじゃないよ」
火龍の皮肉を遮りつつ、長倉は訊ねた。
「で、やっと俺らも降りられそうだな?」
「そうですよ。やっとこの動きにくい服を脱ぎ捨てられるわけです」と、霧乃は陰陽師の正装である束帯を見下ろしてうんざりしたようにそう告げた。
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