第三章 鬼哭啾啾の亡霊

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 そもそもが鬼哭啾啾(きこくしゅうしゅう)、道満の意志を継ぐ者と名乗る霊能者集団によって引き起こされた怪異。  彼らはこの土地に昔から住まう人達とその信仰を利用して、海神の怒りを呼び覚ました。 「彼女は願いを叶えたんだから……と言っていました。鬼哭啾啾(きこくしゅうしゅう)はあの子を利用して海神を制御するつもりだったのではないでしょうか?」  月がそうであるように、あの巫女に神の力を憑依させ、その力でもって、怪異を災厄を起こす。あり得ない話ではない。 「ふむ、だが、ワタツミ神自身が暴走し、それを抑える為に蒼の式神はこの地に残ったのだ。仮におぬしの推測が当たってるにせよ、あの娘ではワタツミ神を制御するには至らなかったのだろうな。いずれにせよ、あの女童が何者か明らかにする必要があるだろう。まず間違いなく生きた人間ではないだろうがな」    天后の考察に、月は頷く。と、会話が途切れたタイミングで、霊符を伝って言霊――通信が入る。 『着地点確保を確認、そちらに天舟を着地させる』と南雲の声が響く。 「うむ、全部聞いておっただろうが、こちらも中々面白いことになっておっての。吉備の連中や一真共の方は何か収穫あったかの?」 『吉備からは連絡があった。船その物が怪異と同化し、物の怪と化していたとな。一真達の方はまだ連絡が無い。何かあったのかもしれん』 「……一真」  思わずぽつりとつぶやく月に、天后が視線を向ける。 『心配無いとも言えんが、彼らには危機を乗り越えるだけの気概と実力はある。我々は我々の仕事をするのみだよ』 「……はい」  南雲の言葉に、月は胸元に溜まっている不安を飲み込んだ。    どうか無事でいて欲しい。そう心の中で祈りながら。
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