第三章 鬼哭啾啾の亡霊

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「大江晃――鬼の力を持つ異能者」  ぴくりと晃が眉を上げた。男の口からはすらすらと晃の陰陽師としての経歴がつらつらと出てくる。 「鬼出村(おにでむら)の怪異で、家族を失い、栃煌市に。鬼一眼徹の元で修行を続けるも飛び出し、大峯山で鬼と混じり修行を積む。先日の怪異にも関わっていると聞いていたが、殺し合いをした相手と共闘する程仲が良くなってるとは思わなかった」  突風を纏った拳が、一真の横を駆け抜け、男の顔面へと叩きつけられた。   「噂通りの短気だね、君は」  男はガードを取ることもなかった。晃の拳は男の顔面に当たっていたが、まるで鉄壁を叩いたかのように震え、男の皮膚を弛ませることすら出来なかった。 「必要なら幾らでも言葉をつくそうではないか。君がそれで満足するならね」 「……っ!」 「やめとけ」  一真は破敵之剣を展開するも、その得物自身に止められる。 「あんた……もしかして、渡辺銀勇か?」  だから、代わりに尋ねる。男はふと笑みをこぼし、晃の拳を指先でそっと押しのける。 「吉備真二から聞いたか」 「あんたは誰から俺らのことを聞いた?」 「自分で答えを見つけてみろ、得意だろう?」  陰陽師の見習いの慇懃な言い様に、陰陽師の剣士は鷹揚に返す。カタカタと銀勇の腰元の刀が揺れる。まるで怒りに震えているように。 「落ち着け『髭斬り』こんな小僧食らっても腹当たりを起こすぞ」  破敵剣と同様、銀勇の持つ霊刀も、本人とのみの言葉を交わすことができるようだ。 「髭斬り……」と義賢は、その刀の名に反応する。 「何百年も昔に取り逃がした鬼が忘れられないようでね、こいつの代々の使い手はその衝動を抑えるのに苦労したそうだ」
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