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夜叉姫と名乗っていた片腕の鬼姫君がいた。月や碧、舞香がつい先日戦ったその鬼は、かつては茨城童子と呼ばれていた存在であると自分で認めていたらしい。
「さて、無駄話はさておき、俺から君たちに――というよりも、現陰陽寮に警告だ。この怪異から手を引け、以上」
「あら。それは貴女のバックについてる組織からの警告かしら? それともあなた自身のお節介?」
義賢の問いに、銀勇はそっと腰元の刀に手を置いた。
「勿論、俺個人のお節介さ。早めに手を引け。子どもらの出るような幕じゃない。たとえ、そこの少年が幾つもの怪異を乗り越えた存在だとしても、ね」
言うや否や抜刀。突然の事に、身構える一真だったが、銀勇の剣先は、祭壇へと向かう。
「喰らい尽くせ、急々如律令!!」
霊力を帯びた叫びに霊刀が呼応し、銀色の刃の切っ先が祭壇へと突き刺さる。突き刺さったその先から祭壇はみるみる内に朽ちていき、地面に描かれていた血で描かれた五芒星は一本ずつ線が抜かれて行き、終いには円も残さず吸い尽くされた。
朽ち果てた祭壇、その霊力の残り滓もまた髭斬りの刃へと吸収されていき、霊刀からは禍々しい霊気が熱となって放出される。
髭斬りのあった空間、その周囲には何もない。
――刎ねられた鬼の首は髭も残さず斬り落とされていたという逸話が、妙にしっくりとくる光景だった。
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