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「これで1つ破壊……全く後幾つあることか」
銀勇は忌々しそうに、囁きその場を去ろうとする。慄然と立ち尽くしていた一真は、慌てて呼び止める。
「渡辺!! さん……」
「なんだ」
返された言葉はぶっきらぼうながら棘が無いような気がした。急に下出になる一真に、晃は呆れ溜息を吐いた。
「いや、その俺達協力した方が、いいんじゃないかな。その、ここにあるような祭壇を幾つも破壊するのに人手がいるだろうし」
「俺の髭斬りは喰らった奴と同じ気を探知することができる。探すのは非常に面倒だったが、一度喰らえば楽なもんだ」
だから、要らんと言外に伝えてくる。再び背を向け、銀勇は続ける。
「それより、ここは危険だ。今すぐ去らないと、――死ぬぞ」
錆だらけの重々しい扉を開け、銀勇は去っていく。
「んで、どうすんだ? あの男の忠告通り、ガキはお家帰ってねんねするか?」
晃はまだ腹立たしいらしく、斜に構えた態度で二人に訊ねた。
「いや、それよりも……義賢さん、さっき全ての祭壇を壊さなくてもいいって言ってたよな、あれは」
「あの髭斬りの坊やが壊して回ってくれるだろうと思うのよ、祭壇は。私達は月ちゃん達のいる竜宮に乗り込むのがいいんじゃないかしら」
「いや、でも、鬼哭啾啾(きこくしゅうしゅう)だっけ……、もしかしたら、この船の中にも忍び込んでるんじゃないか? あいつらを見つけて捕らえればこの怪異の情報も得られるんじゃ……」
「んー、私が思うに、そのきこくなんとかって……この船にはもう存在しないんじゃないかしら」
がしゃんと言う音と共に、一真達が入って来た扉から現れるどす黒い気を纏った人間――物の怪。
「くそ、しつこい!!」
晃が鬼神の甲冑を纏い、構え、義賢もまた長刀を物の怪に向ける。
「わ、れは、わたし、は……きこく、しゅうしゅう」
壊れたテレビの音声のように繰り返されるその言葉に、一真は戦慄する。
「こいつらも……怪異に取り込まれたのか!?」
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