第三章 鬼哭啾啾の亡霊

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 爆音が鼓膜を叩き、吹き荒れる爆風、爆発によって生じた亀裂から海水が流れ込む。  一真と晃の手持ちの護符が結界をドーム状に張り、瀑布を相殺した。 「「「っ――!?」」」  三人とも一瞬、その場で起きた事が呑み込めずに唖然としていた。一真と晃が事前に月に持たされていた護符が無ければ瀑布に呑まれていただろう。現に彼らの周りにいた物の怪達は海流に流しだされてしまっている。  元が人間であるからか、物理的な法則に律儀に従っているようだ。無論、海水で流しだされた位で彼らが浄化できるとも思えないが、少なくとも脱出を妨害されずに済む。    だが、安堵したのもつかの間、船の中で立て続けに爆発が連鎖し、辺りには粉塵と船の破片が舞っていた。  船の中に流れ込んでくる海水はあっという間に腰程の高さになっていた。 「くそ、今度は何なんだよ!?」 「陰謀めいた船に、爆発オチ、まるで安っぽい映画みたいじゃない」 「言ってる場合ですか!! 早く逃げますよ!」  興ざめしている義賢に晃が雑にツッコミを入れる。護符は固定型ではないらしく、一真と晃が歩行するのに合わせて結界も動いた。簡易な作りながら、式神としての機能をアレンジして組み込まれている護符だ。船や建物そのものからの脱出を考慮している。  おかげで脱出は迅速だった。水圧がドアを塞ぐ高さになるよりも早くその場を離れ、エレベーターは使わずに非常階段を使って甲板上まで出た。  義賢が素早く九字を切ると、上空に待機していた小舟が舞い降り、三人の目の前で着地した。  結界を解き、転がるようにして乗り込む。 「ったく、寿命が百年位縮むとこだったわ――」  軽口を叩いて二人を和ませようとしたその時だった。  一段と大きな爆発が起き、燃え盛る船体のマストが一本引き千切れるように折れて落下した。  三人が今まさに脱出せんとする小舟の方へと。
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