第三章 鬼哭啾啾の亡霊

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「簡単に言ってくれるよなぁ」  一真は情けない声でぼやき、自身の霊符を確認する。船中での自身の戦いぶりを、どこか他人事のように思い出しながら。陰陽師の仲間として戦い始め数か月で、あれ程の力を出せたと言えば、誰もが驚嘆するだろう……が、彼の中にあるのは、自分が自分では無いかのような……自分という存在が魂の奥底から塗り替えられていくかのような感覚。  それでいて、彼の魂の中に棲むもう一人の『一真』は沈黙している。  その困惑が顔に出ていたのだろう。晃がぽんと肩を叩いた。 「あれの実力がそんなに心配か? 俺やお前なんかよりも、遥かに強いだろうに」 「なんだよ。珍しいな、お前が誰かをそんな風に言うなんてさ」  負けず嫌いで、吹っ掛けられた喧嘩に突っかかり、暴れ、相手が負けを認めるまで喰らいつく。それは青春ドラマのような柔なストーリーではなく、もっと血生臭く、昏い物語から作り上げられた性格だ。  今も完全にその性格が抜けきったわけではないのだろう。だが、大峯山の戦い以降、毒気が抜けたような気がする。 「ふん、一度負けたからな。だが、次戦う事があったらぶっ潰す」 「いや、ねぇだろ…・…戦うことなんて」
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