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「そう? でも、彼女は、違う。あなた、それ、分かってる? 覚悟、ある?」
彼女とは、月の事か。彼女も陰陽師だ。そして、陰陽少女――陰と陽、二つの世界のバランスを保つ宿命を背負ってもいる。
今回の怪異は物の怪ではなく、人が巻き起こしたいわば人災。物の怪が引き起こした怪異を彼女は悉く浄化してきた。ならば、人が起こした怪異も……。
「あいつ一人に全てを背負わせるつもりは無い。たとえ、人間と戦うことになってもな」
「ふふふ、どうせ皆、押し付ける。人とはそういうも――私も――て、ねが――で――られた」
再び少女の声にノイズが走り、哄笑が何重にも重なる。巫女として、歪な願いを叶えた少女の嘆き、絶望の声が呪いとなって身体に――。
「おら、しっかりしろ」
腰に蹴りを入れられ、一真は強引に現実へと戻された。少女の姿も、声も一瞬にして消えた。
「何すんだ!!」
「煩ぇ、一人で勝手に悶えてんじゃねぇ、気持ち悪い」
「気持ち悪いとは何――」
「はいはい、ストップ―。喧嘩してるうちに面倒な奴らが復活しちゃうわよ?」
義賢が両手で二人を引き離し、通路を顎でしゃくる。「あ」と喧嘩を止められた二人は、次第に形を取り戻す亡霊を見て焦った。
「電波塔はすぐそこよ。多分、何も起きていなければ、月の方もこっちの騒動は感知して」
――いる筈よという声は、上空から降ってきた焔にかき消された。義賢のすぐ後ろで復活していた亡霊が跡形も無く消し炭と化する。
「おーい、来るの遅いよー。おかげで私、おいてかれちゃったじゃないー」
降り立った日向がむすーっとした顔で一真達に文句を言った。消し炭になった亡霊を草履で、ぐりぐりと潰している。
「……可愛い顔してえげつねぇな」
「いつものことだ」
晃の言葉に一真は静かに答えつつ、日向に訊ねる。
「月は?」
「だからー、行っちゃったの、一人で。しばらく一真くん達待ってたんだけど。隻眼の巫女が呼んでるからって」
隻眼の巫女。それは先程の少女か。哄笑と共に悪寒が蘇る。
「どこへ行ったんだ、月は!」
「電波塔の地下。二十年前に社があったとされる場所」
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