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キィキィキィ――人がいなくなって久しい、無音の地を演出するのは絶えず吹き続ける黒い風だ。
黒い風とは、ここが放棄されて以降につけられた怪奇現象の名称だった。測定器では風向きも風の強さも測ることができない、絶えずこの地に吹き付けている風。
一時期は誰もが知る都市伝説、怪奇現象として、この地での出来事は人々の記憶に焼き付けられた。
しかし、ここをホラースポットとして訪れる者はいなかった。なぜならばここは封鎖されていたからだった。その事実が、怪奇現象を信じる人々の想いを確信へと変えていた。
なにか危険な人物が潜り込んでいるわけでもない。
なにか危険な化学物質が漏れ出たわけでもない。
なにか危険な災害が起きたわけでもない。
だが、ここには危険な。なにかがあった。
人が触れてはいけないなにかが――。
幾つものビルが、放棄されたままの姿を残し、掲示板には時代遅れの広告のチラシが貼り付けられていた。そのチラシの一枚が風に飛ばされた。
風に乱され飛ぶ。荒ぶる猛禽のように飛ぶ。
一番背の高い建物。それはこの地へと情報を、娯楽を、そして危険を伝えるための電波塔だった。今はアンテナが折れているため、電波を発信することはない……が、中では未だに亡霊が救難信号を発し続けていると噂されていた。
物理的な被害は、目に見える被害は……そこだけのように見えた。
と、チラシが折れたアンテナへとぶつかり、引っ掛かった。
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