第一章 始まりは終わりの地で

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「……鬼ですね」 「だって鬼ですから」  未来がつく悪態にも、くすくすと偽悪的に笑って返した。 「で、も、普通は利用されるところから始まるものよ。私だって昔は役行者に、ただこき使われるだけの式神だったもの。利用する側になるなんて千年位早いわ」  散々な言われようだが、未来は黙ってその言葉を聞いている。 「リアル千年位は年取ってるヒトに言われると現実味が沸くよね」と瑠璃が爆弾発言を漏らした直後、頭に義賢からの鉄拳制裁を食らった。 「ま、それは、と、も、か、く?」と床に死んだように突っ伏す瑠璃を睨みつけつつ、義賢は未来に視線を戻した。 「そこにいる笹井だって、私にただただ利用されるだけの駒に過ぎない。けども彼はそれでもこの世界と通じることができるならばと、その立場をよしとしている。その立場を利用しようとさえしているのよ」  未来にもそれを選ぶ権利はある、と。義賢は言っているらしい。が、ここまで黙って聞いていた大人達は流石に口を出した。 「ちょっと待ちなさいよ、一般人をホイホイとこっちの業界に連れ込む事は許されないわ!」  氷雨の言葉にも、義賢は罪悪感を刺激された様子はない。 「誰が許さないの? あなた達、陰陽師が、かしら? 何を選ぶかなんてこの娘の勝手よ」 「この娘(こ)の意思ならばね」と、蒼が静かに付け加えた。 「明らかにあなたは、この娘の思考を誘導しようとしているもの。」  男達はその論議には口を出さなかったが、鋭い問いかけるような視線を未来に向けている。 「私は……」と、未来が口を開いた。縋るわけではないが、心の支えにするように一真や月の顔を見る。 「前に私の命を助けてくれた二人のことが心配なんです。何がしたいってわけじゃない。知っておきたいんです。なにも知らないままなのが一番怖い」   「フフフ、何がしたいてわけじゃないってのは嘘なんじゃない?」 「義賢!」  氷雨が怒気も顕に肌の上に淡い龍の霊気を浮かび上がらせた。真二が抑えるように妻の肩に手をやる。 「まぁ……、嘘ですけど。でも、何も出来ない時の方が多い。その時に……、何も出来ないから何も知らなくていいってのが絶対に嫌なんです」
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