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一真がちらっと月の方を見ると、彼女は表情を固くして、未来の話を聞いていた。
「だから、陰陽の世界に、私も首を突っ込んでみたい。友達の為に」
それは決して柔な決意ではない。初めて怪異に巻き込まれ、怪異で誰かを守らなければならない状況を経験し、そして今陰陽の世界が大きく揺れ動くその渦に巻き込まれて、それらの経験を通しての決断だった。
義賢はいかにもその答えを見通していたかのようにうんうんと頷いて、周りを苛立たせた。
「ほーら、ちゃんと彼女自身の望みじゃない。私は別に彼女を誘導しようなんて――」
「あ、でも、義賢さんに利用されるのは今回だけでこりごりなんで」
「な、なにィ!?」
――化けの皮が剥がれるの早すぎだろ。
義賢の豹変ぶりに、一真をはじめ周りは、冷たい視線を義賢に向ける。未来はあっはははと大笑いして、それまでの緊張を破る。
「だから、次から何かするときは私も混ぜなさいよ?」
「い、いや、無理だろ……霊術も使えないのに」
ぎこちなくしか否定できない一真に追い打ちを掛けるように、後ろから晃が冷やかした。
「よく言うぜ。お前だって、ここ数ヶ月でようやく付け焼刃ができたところだろ?」
「晃、お前はよけーな事言わなくていい」
彼の式神である葛葉丸は、元々晃が学校をサボるための代わりとして栃煌市にいたのだが、度々隠形して一真のことを観察していたらしい。主の命令ではなく葛葉丸自身が興味を示していたらしいのだが、その観察力はかなりのものであったらしい。
「最初は身固めですら碌に出来ませんでしたものね。手の周りとか小さな範囲にすら術をかけられなかったときは、僕殆ど諦めかけてましたよ」
「失望させて悪かったな……ストーカー野郎」
狐の式神のニコニコ顔に、一真は悪態を吐いた。
「いいのよ、使えなくたって」と、未来は開き直るように言って、それから「あれ?」と首を傾げた。
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