第一章 始まりは終わりの地で

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†††  甲板の上に残っていた日向は、あちゃあと一真の方を見ながら顔をだらしなく緩ませた。主と主の友達から伝わってくる怒気は感覚を共有した途端、沸騰したお湯のように伝わってきたのだ。  一真達はそのことを知らない。いや、知っている必要があるのは、一真だけなのだが。彼らは互いに情報を共有するため、話し合いを進めていた。今は、どちらかといえばそっちの方が重要なので一真に月と未来のことは伝えていない。が、この話し合いが終わる頃には彼女達の怒りは手がつけられなくなっているだろうことも考えると、日向は不安と面白いことになりそうという半々の気持ちだった。要はそこまで危機感を感じてはいないのだが、三人でのドロドロとしたケンカになった場合、まず間違いなく、自分が仲裁に入らなくてはいけなくなるだろうことを考えてヤレヤレだぜ、と思うのだった。  と、色々と思考していると、一真がくるっと頭を回して日向を窘めるように言った。 「おい、日向。ちゃんと聞いてろよ。式神であるお前かちゃんと聞いてないと、月にもちゃんと伝わらないだろ?」 「ちゃんとの三段活用……」 「何言ってんだ」  知らないとはいえ全くもって気楽なもんだと、日向は呆れた。月の後を追って未来まで行ってしまった時、少しは危機感を覚えても良かっただろうに、この少年は逆に安堵してしまったらしい。  やれやれと溜息をつき、ちらっと蒼の方を見ると彼女は既に娘のことではなく、義賢の話の方に集中している。流石というべきか、為すべきことを為すを体現するかのような性格なのだ。  義賢はというと、平然と話をしているように見えて、実は気になっているようである。が、この鬼女の場合は心配しているとかそんな優しい感情ではなく、あの二人と一真との関係をこっそりと覗いてはニヤニヤとほくそ笑んでいるのである。実に不気味だ。 ――こっそり覗いてニヤニヤするのは私の役目なのにぃ。
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